はじめに:矯正が歯を動かすメカニズムって?
歯の治療の中でも1番治療期間のかかる矯正治療ですが、それには様々な理由があります。まずは、矯正が歯を動かすメカニズムについて理解しましょう!
歯の骨の代謝を促して動かす
人の歯は、「歯槽骨(しそうこつ)」という歯ぐきの中にある骨に埋まっています。硬いモノを噛めるように歯はしっかりと骨に埋まっているため、動かすのは大変なことです。
通常矯正治療ではブラケットと呼ばれる小さな四角い装置を歯に固定し、そこにアーチ型のワイヤーを通してブラケットに留め、ワイヤーが元に戻ろうとする力により矯正力を発揮させ歯を動かしていきます。
この時、歯が埋まっている骨と歯の間にはクッションの役割をしている膜があるのですが、その膜が圧迫されている部分は骨が吸収され減っていきます。膜が引っ張られている部分は骨が増えていきます。
そのため圧迫された側の骨を減らしながら歯が進み、進んだ後には新しい骨ができて歯が固定するというルーティーン(代謝)を繰り返しながら、歯を適切な位置まで動かし歯並びを整えていきます。
歯が動くスピードは1ヶ月に1ミリ程度
歯を動かすための骨の代謝は非常に時間がかかり、早くても1か月に1ミリしか歯を動かすことはできません。
無理に動かそうとして強い力を加えると、骨や歯と骨の間にある歯根膜(しこんまく)にダメージを与えてしまい逆に代謝が悪くなり、歯が動きが遅くなってしまいます。そうすると矯正の治療が長引いてしまうため適切なスピードで行う必要があるのです。
その為、成人矯正には歯を動かす適切なスピードとして2年~3年の長い治療期間が必要になります。
大人の矯正の治療期間
平均期間は2〜3年
大人の矯正治療は早くても1年半から2年、歯並びが極端に悪いなど症状が激しい場合は3年以上かけて治療を行う必要があります。矯正治療はその人のお口の状態によって、治療期間も個人差があることを覚えておきましょう。
特にあごが小さく矯正する際、歯が並べないような方は抜歯が必要になります。抜歯をするとその分歯の移動距離が長くなるため、さらに治療期間は長くなります。
治療方法ごとの平均治療期間
治療方法 | 平均治療期間 | こんな人におすすめ |
表側矯正 | 2年~3年ほど | ・確実に短期間で歯並びをキレイにしたい人
・費用をなるべく抑えたい ・発音よく話したい人 |
裏側矯正 | 2年~4年ほど | ・目立ちにくい矯正治療をしたい人
・接客業や営業など人と話す仕事をする人 ・むし歯になりやすい人 |
マウスピース矯正 | 2年~3年ほど | ・目立たない矯正をしたい人
・取り外しできる矯正がしたい人 ・金属アレルギーを持っている人 |
部分矯正 | 半年~1年ほど | ・前歯だけをキレイにしたい人
・短期間で歯並びを整えたい人 ・費用をなるべく抑えたい人 |
表側矯正やマウスピースは、だいたい2年~3年と同じ位の治療期間がかかります。マウスピースは一度に動かせる距離は少ないですが、専用のマウスピースを使うことにより無駄なく歯が動かせるためです。
裏側矯正は目立たないというメリットがありますが、裏側の処置になるため高い技術力が必要になり表側矯正と同じようなスピードで歯を動かせる歯科医師が少ないという難点があります。そのため裏側矯正は比較的他の治療よりも時間がかかります。
部分矯正は小規模な移動なので、その矯正よりも短期間で終わらせることが可能です。
スピード治療が可能な矯正方法
短期間で治療を行いたい方向けに、スピード治療が可能な矯正を取り扱っているクリニックもあります。まずはどんなスピード矯正方法があるのか確認していきましょう。
コルチコトミー
平均治療期間 | 6ヶ月~1年半ほど |
メリット | ・最短6ヶ月で治療が終了する
・歯ぐきもキレイになる ・後戻りを起こしにくい |
デメリット | ・手術が必要になる
・痛みを伴うことがある ・費用が追加でかかる |
こんな人におすすめ | ・とにかく早く矯正治療を進めたい人
・歯の動きが遅い人 ・40代以上の人 ・歯ぐきに問題がある人 |
コルチコトミーとは、矯正治療を行う際、歯が埋まっている骨に小さな切れ目を入れて歯を速く動かす方法です。日本では「促進矯正法」と呼ばれ、あごの一番硬い骨を一部除去し、歯を直接支えている内側の柔らかい骨少し切り込みを入れ、歯が動きやすい状態を作り出します。
一度切り込みを入れた骨は以前よりも頑丈に治癒する性質をもっているため、歯がしっかりと固定され後戻りを起こしにくい所も特徴です。
コルチコトミーは、矯正期間が通常の半分にまで短縮できるという結果がでており、矯正期間を早めたい人にはオプションの1つとして知っておきたい処置です。
矯正治療を始める前に歯ぐきの手術をする必要がありますがマイクロスコープなどの最新機器を使い処置するため痛みも少なく安全な方法です。
しかし、コルチコトミーを行う歯科医師は外科処置やインプラント手術などの経験が必要になるため、取り扱っている歯科医院が限られてしまいます。
オーソパルス
引用元:挙母矯正歯科
平均治療期間 | 1年~1年半ほど |
メリット | ・矯正期間を短縮できる
・マウスピース矯正と一緒にできる ・気軽に自分でできる ・痛みがない |
デメリット | ・追加費用がかかる |
こんな人におすすめ | ・手術以外で矯正期間を短縮したい人
・マウスピース矯正を考えている人 |
オーソパルスとは光を使って歯の移動を早め、矯正治療の期間を短くする最先端の医療機器です。カナダで開発されてから、日本でも徐々に取り入れられるようになりました。
オーソパルスは、生体透過性のある「近赤外線」を歯や骨に当てることで、細胞活動が活発になり骨の吸収と形成のスピードを早め歯が移動するスピードがアップします。光を使うことから「光加速矯正」とも呼ばれ人気が出始めています。
オーソパルスのメリットは、矯正治療の期間を半分ほどに短縮できるという効果の高さと矯正治療に伴う痛みを軽減してくれるところにあります。
矯正中は歯が移動することにより、歯の根元部分にある歯根膜の中の血管が圧迫され痛みを感じやすくなりますが、オーソパルスの近赤外線により末梢血管が拡張され、血流が良くなる事で矯正治療中の痛みが軽減します。
スピードオルソ
平均治療期間 | 1年~1年半 |
メリット | ・気軽にできる
・痛みがない ・矯正期間を短縮できる |
デメリット | ・追加費用がかかる
・手間がかかる |
こんな人におすすめ | ・手術以外で矯正期間を短縮したい人 |
スピードオルソは整形外科や整骨院で骨折の治療に用いられる「微振動療法」をもとに開発された機械になり、細胞の活性化を最大限に促す微振動を起こす仕組みになっています。
使い方としては矯正治療と併用して、振動を出す小型のマシーンに専用のマウスピースをつけて噛み1日20分ほど使用し歯に振動を与えます。適切な振動を歯に与えることにより、骨を吸収する破骨細胞と骨を新たに作る骨芽細胞の増殖を活発にさせ、より早い代謝を促すことができるようになりました。
まだあまり知られていない装置ですが矯正治療と併用してスピードオルソを使うと、矯正治療の期間を30%短縮できるという報告がされています。
まだ取扱いの無い歯科医院が多いですが、治療期間を短くしたい!という方はオプションとしてスピードオルソを取り扱っている歯科医院を探してみるのもおすすめです。追加料金はかかりますが、治療期間を確実に短縮できます。
平均の保定期間(リテーナー装着期間)
リテーナーとは?
リテーナーとは保定装置とも呼ばれる装置で、ブラケットやワイヤーの力で歯を動かし整えた後、歯が元の位置に戻らないように安定させるための装置になります。
通常リテーナーは、ワイヤーなどで固定するタイプのものと、取り外し可能なマウスピースなどの装置を使うのが一般的です。最近では固定タイプのリテーナーも、目立ちにくい細いワイヤーや白いワイヤーを使うなど目立ちにくいものを使うなどの配慮をしてくれる歯科医院も増えています。
固定タイプはマウスピースよりも目立ちはしますが一度固定してしまえば、そのままで保定されるので取扱いが楽なところがメリットです。マウスピースは取り外しが可能なので、食事の時や気になる時は外せるため気にならないことがメリットです。しかし、一日のうちに長時間つけていないと歯が後戻りをおこしてしまうので注意が必要です。
歯科医院によって使っているリテーナーはさまざまですので、自分の希望があれば事前にリサーチしておきましょう。
リテーナーが必要な理由
矯正治療は歯を動かして整える「動的治療」と、その後整った歯並びを安定させるための「保定」の2つの期間からなります。
歯を動かす動的治療では、歯が埋まっている骨を吸収しながら形成する「代謝」が行われているため、完全に歯を固定しているわけではありません。歯を並べ終わった後でも、1年間は非常に骨が不安定な状態です。
また、歯の周りにある歯根膜が歯を戻そうとする力を加えてきます。その力は強く、せっかくキレイに歯を並べてもその後の保定をしっかりと行わないとまた歯並びが崩れてしまうことになりかねません。これを歯科業界では「後戻り」と呼んでいますが、後戻りしないためもリテーナーが必要になります。
リテーナーが必要な期間
保定期間になり、リテーナーを装着した後は1年ほどで徐々に骨が安定し歯の位置が定まってきます。その後は、マウスピースに変えたり少しずつリテーナーを装着する時間を短くしながらリテーナーを外していきます。だいたい1年~2年ほどが目安になります。
大人の矯正期間まとめ
- 歯は骨の吸収と形成が行われる代謝によって動く
- 骨の代謝スピードを上げる最新機器を取り扱う歯科医院もある
- 歯を並べた後も保定期間として最低1年はリテーナーをつける必要がある
矯正治療では、歯を圧迫することにより歯が埋まっている骨の代謝(吸収と形成)が行われることで歯が動いていきますが、この代謝のスピードが早いほど矯正治療を短くすることができます。最近では、この代謝を上げるための最新機器を取り扱っている歯科医院も多く、オプションとして矯正治療と併用することが可能です。
矯正治療のしくみやオプションを理解しておくと病院選びもしやすくなるはずです。自分の希望の矯正治療法をよく考え歯科医師と相談しましょう。